嘆願書とは、加害者の刑事罰を軽くする目的で被害者が作成する文書ですが、被害者には嘆願書を書く義務は全くなく、加害者に頼まれても応じる必要はありません。
加害者が相当の罰を受けるべきと思うなら、嘆願書のことは考えず検察に任せましょう。
こちらから嘆願書の話をしていないのに、加害者に嘆願書を書いてくれと頼まれたら、どれほどの誠意があるか思い出せば、嘆願書を書くべきか判断できるのではないでしょうか。
嘆願書の作成は被害者の任意であって、誰も請求などできないものです。
このページでは嘆願書の書き方や影響について説明していますが、その前に嘆願書の必要性についても考えてみます。
交通事故の加害者は千差万別
交通事故の加害者の中には、人間とは思えないほど誠意が感じられず、一切の謝罪がないばかりか、対応も保険会社や弁護士に任せきりで、お見舞いにも葬儀にも顔を出さない人もいます。
被害者やその遺族としては、感情が爆発しそうになるのを抑えながらも、自らが請求できるのは民事上の損害賠償請求だけで、罰するのは司法の役割ですから悔しい思いをするでしょう。
その一方で、事故後の対応から誠実さが感じられ、事故に対して十分に反省していると思える加害者もいるのは確かで、むしろ加害者に同情してしまうほどのケースもあります。
起こした事故は取り返しが付かないものですが、加害者にとっても不幸な事故なのです。
つまり、軽傷事故でも許せない加害者がいるのに対し、死亡事故ですら許してあげたくなる加害者もいるということになります。
嘆願書は情状酌量を左右する効果がある
どのような加害者であっても、過失と損害の程度によって、しかるべき処罰がされます。
当然ながら、許せない軽傷事故の加害者は刑が軽く、許してあげたい死亡事故の加害者は刑が重くなり、量刑を知ったときの被害者感情は実に複雑です。
また、同じ程度の事故なのに、誠意のある加害者と誠意のない加害者が同じ罰を受けるとしたら、それもまた感情論として納得できないでしょう。
では、被害者側から加害者の刑事罰に対して、何かできることはないのでしょうか?
刑事罰は検察官によって求刑され、裁判官が判断して決める性質である以上、必要以上に重い罰を与えることはできず、被害者の声は届かないものです。
しかし、刑事罰には情状酌量があり、情状酌量の要素には被害者感情も含まれているため、情状酌量を大きくして刑を軽くしてあげるのが嘆願書の存在です。
たとえ刑が軽くならなくても、嘆願書で執行猶予付きの判決になる可能性も高まります。
嘆願書を書くタイミング
嘆願書を書くにあたり、前提として示談が成立していなければ難しいはずです。
示談も済んでいないのに、嘆願書を書くのはあまりにも人が良すぎ、加害者の刑事罰だけ軽くしてあげて、損害賠償請求でトラブルになっては元も子もありません。
そして大抵の場合、示談の内容も含めて嘆願書を書くのですが、嘆願書だけ分けて書く場合もあるので、加害者側からどのようにして欲しいか聞くと良いでしょう。
何度も書面を書くのは面倒なので、示談した旨を含めて嘆願書を書く方が合理的です。
嘆願書の書き方
嘆願書に決まった書き方はなく、書式も特に決まっていませんが、書かなくてはならないポイントは次のように決まっています。
・宛先(検察官・検察庁か裁判官・裁判所)
・事故と加害者を特定する内容
・示談が成立していればその旨
・寛大な処分を望む旨
・嘆願書の作成日、作成者の住所、署名と押印
【嘆願書の例】
嘆願書の提出先
嘆願書を出すとすれば、加害者の現状によって検察官か裁判所のどちらかです。
嘆願書が提出される相手に合わせて、宛名を変えて作成することになります。
加害者が起訴される前:検察官(検察庁)宛て
加害者が判決を受ける前:裁判所宛て
実際には、加害者や保険会社の担当者に、嘆願書を渡すケースがほとんどで、自分で検察官(検察庁)や裁判所に送ることは少ないです。
また、行政処分が重いときは、公安委員会への提出用に、嘆願書を依頼されることもあります。
刑事罰と異なり、行政処分まで協力してあげる必要性は無いとも言えますし、加害者として行政処分くらいは受けるべきとも言えます。
この辺は考え方次第で、一応は公安委員会宛ての嘆願書もあり得ると覚えておきましょう。
行政処分と嘆願書
一般には行政処分に嘆願書は効果が無いと言われていますが、全く無いとも言えず、重い処分(免停90日以上)になると、公安委員会で聴聞会が開かれます。
聴聞会とは、加害者が起こした交通違反に対して、弁明があれば聴取し、反省の態度を確認して処分を決定するための場です。
違反に対する点数によって処分が決まる都合上、処分が軽くなることはないはずですが、聴聞会の結果によって、処分を一段階軽くする裁定も実際に行われています。
したがって、嘆願書が無意味ではないとしても、その効果は刑事罰よりも小さいのは確実です。
厳罰を求める嘆願書はない?
嘆願書によって情状酌量が左右されるのであれば、情状酌量をしない方向で、つまり厳罰を求める嘆願書(厳罰嘆願書)があっても良く、実際には存在します。
加害者に全く誠意が無く、とても信じられない対応をしてくるのなら、減刑嘆願書どころか厳罰嘆願書も考えてみましょう。
起訴前に検察官に送ることで、起訴猶予が起訴になったり、執行猶予が付かなくなったりする可能性はありますし、検察官や裁判官も人間である以上、加害者の非道な行動を厳罰嘆願書で知れば、心証が変わっておかしくないからです。
誰が嘆願書を書いても差し支えないですが、やはり事故の被害者や遺族から提出されるのが、最も効果があり、そうであるべきでしょう。
書き方としては、加害者の対応がいかに不誠実だったか、被害者や遺族がどれだけ傷つき無念な思いをしているかなどを含め、最後は必ず厳罰を望みますと結びます。