労災保険で受診するとき、初診時の病院なのか転院時の病院なのか、業務災害か通勤災害かでそれぞれ違う書類(名称が同じでも様式が違う)を病院に提出します。

いずれの書類も、記載事項の一部を会社に証明してもらい(記入欄がある)、印鑑を押してもらわなければならないため、会社がある程度の規模になると多少の時間はかかります。

また、交通事故は第三者行為(事業主や労働者以外の他人によって起こされた行為)に該当するので、労災保険が被災者(事故の被害者)の治療費を立て替え、加害者に請求する流れです。

受診に必要な書類とは別に、第三者行為災害届を労働基準監督署に提出します。

必要な書類は、病院、会社、労働基準監督署のいずれかにありますが、厚生労働省のホームページからもダウンロード可能です。

厚生労働省:労災保険給付関係請求書等ダウンロード

受診時に必要な書類

【初診時】
・業務災害:療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
・通勤災害:療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)

【転院時】
・業務災害:療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第6号)
・通勤災害:療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届(様式第16号の4)

本来の手順は、病院へ労災書類を提出してから労災としての治療開始です。

そのため、労災書類提出前の対応は病院によって異なります。

・書類提出まで自己負担(書類提出で返金)
・保証金(預かり金)で費用請求なし
・後日書類提出を前提に費用請求なし

特に転院時は、経緯も全くわからずに患者の言うままで労災扱いできないため、労災書類の提出まで全額自己負担もあり得ますから、お金は多めに用意します。

可能な限り、労災書類は用意してから受診するのがベストです。

労災指定病院以外で受診してしまった場合には、既に自己負担した治療費を、労災保険に請求する手続きが必要で、そのための書類も存在します。

・業務災害のとき:療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)
・通勤災害のとき:療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)

これらの書類は、病院、薬局、柔道整復、はりきゅう(あん摩マッサージ含む)、訪問看護に分かれているので、間違えないように使用します。

通常は、会社の労務担当を通じて、労働基準監督署に提出することになるでしょう。

全体的に似たような書類の名称なので混乱しますが、次のように覚えると簡単です。

・労災指定病院で受診→給付請求書
・労災指定病院以外で受診→費用請求書
・労災指定病院に転院→指定病院等(変更)届
・業務災害で受診→名称に「補償」と付く
・通勤災害で受診→名称に「補償」と付かない

これらの書類をまとめると、以下の通りになります。

業務災害(補償と付く) 通勤災害 提出先
労災指定病院 療養補償給付たる療養の給付請求書

(様式第5号)

療養給付たる療養の給付請求書

(様式第16号の3)

受診する病院
労災指定病院以外 療養補償給付たる療養の費用請求書

(様式第7号)

療養給付たる療養の費用請求書

(様式第16号の5)

労働基準監督署
転院時 療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届

(様式第6号)

療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届

(様式第16号の4)

転院先の病院

なお、初診時に労災指定病院以外で受診し、労災指定病院に転院(転医)した場合は、転院先が労災保険上の初診となるため、様式第5号または様式第16号の3です。

第三者行為災害届の提出

第三者行為災害届は、労災保険が事故の被害者(労災の被災者)に給付した治療費等を、加害者側(加害者、自賠責保険、任意保険)に対し請求するための書類です。

この書類は、被害者にとって労災での治療に直接関係しませんが、速やかに出さないと労災保険の給付が止まる可能性もあるので要注意です。

第三者行為災害届は2部必要なだけではなく、他にも添付書類があります。

【第三者行為災害届に必要な添付書類】

・交通事故証明書2部
・念書(兼同意書)3部
・示談書(示談している場合)
・自賠責保険や任意保険の支払証明書または支払通知書(先に賠償を受けている場合)
・死体検案書または死亡診断書(死亡時)
・戸籍謄本(死亡時)

第三者行為災害届の提出先は、雇用されている会社の所在地を管轄する労働基準監督署です。

健康保険を使ってしまった場合

労災で健康保険を使うことが違法だと知らずに、または労災保険が雇用されているほとんどの人で使えると知らずに、健康保険を使ってしまうことは少なからずあるはずです。

あるいは、勤務先で健康保険を使うように言われて使ったのかもしれません。

いずれにせよ、そのまま健康保険では治療を続けられないので、労災保険への切り替え又は治療費請求が必要になります。

受診している病院に労災保険への切り替えを相談し、どのように回答を得られるのかで次のように3パターン考えられます。

【労災保険へ切り替えできる場合】

労災保険への切り替えが可能となるのは、患者の自己負担分以外が、まだ健康保険から病院に支払われていない場合です。

通常、病院は1ヶ月単位でまとめて健康保険(正確には社会保険診療報酬支払基金)に請求をするので、診療報酬を患者の自己負担分しか回収できていなければ、労災保険へ切り替えできます。

この場合の手順は簡単で、最初に病院から自己負担分を返金してもらいます。

そうすると、病院は診療報酬を全く受け取っていない状態になりますから、労災受診時の書類である「療養(補償)給付たる療養の給付請求書」を病院に提出します。

1.病院から自己負担分を返金
2.労災受診の必要書類を病院に提出
3.病院は労災保険に治療費を請求

【労災保険へ切り替えできない場合:労災指定病院】

労災指定病院であっても、健康保険から患者の自己負担分以外が支払われている(もしくは健康保険へ請求されている)と、労災保険への切り替えができません。

健康保険が病院に支払った分は、患者自身が健康保険に返さなくてはならず、一時的には健康保険を使ってしまった治療費を全額負担することになります。

その上で、労災保険に全額負担した治療費を請求して支払いを受けます。

1.健康保険に労災であることを連絡
2.健康保険に自己負担分以外を返納(全額負担)
3.労災保険に全額を請求
4.以降は労災保険に切り替え(必要書類を病院に提出)

【労災保険へ切り替えできない場合:労災指定病院以外】

労災指定病院以外では、そもそも労災保険への切り替えができないので、全額を自己負担して労災保険に請求するのが本来の手続きです。

したがって、健康保険から支払われていなければ残りの7割も窓口で支払い、健康保険から支払われていれば、7割を健康保険に返納します。

1.自己負担分以外の7割を窓口支払い又は健康保険に返納
2.労災保険に全額を請求
3.以降は全額自己負担で労災保険に請求するか労災指定病院に転院