示談開始のタイミングにもなる損害の確定は、交通事故の結果、どのような損害を受けどのような結果になったかによって全く異なります。
具体的には、完治するケガの場合、後遺症を残すケガの場合、死亡に至った場合の3つです。
損害が確定するタイミングは、被害者にとっても加害者にとっても重要で、それは確定してから生じる治療費等が、全て被害者の負担になるからです。
要するに、加害者が負うべき損害賠償責任を明確にするタイミングなので、被害者としては賠償が不足しないように、早まって損害を確定するべきではありません。
完治するケガの場合
治療によって完治するケガであれば、完治(治癒とも言います)の時点で損害が確定します。
もちろん、重いケガならそれだけ治療期間も長く、治療費が増えていくので損害額も増えます。
完治するケガでは、完治までの治療費等の実費、治療のために休業を余儀なくされた日数に対する休業損害、そしてケガを負わせたことに対する慰謝料が支払われます。
少なくとも治療によって改善が見込める状態なら、治療が終わっていないと言えますが、その一方で完治と完治直前の境目はあいまいで、被害者の主張だけでは客観性に欠けます。
そのため、完治の判断は原則的に主治医の判断に委ねられ、医師がそれ以上の治療を不要と考えたタイミングが治療の終了=損害の確定です。
後遺症を残すケガの場合
ケガの程度が重いと、それ以上治療を続けても改善が見られなくなる時期がやってきます。
もしくは、改善が見られても悪化してしまい、また改善して悪化するというように、ある程度の範囲内で症状を繰り返し、完治が見込めなくなる状態です。
このような状況になると、治療を続ける効果は無いものとして、治療を打ち切ることになります。
一般には、正常ではないにもかかわらず、治療効果が見込めなくなる状況を「症状固定」と呼び、症状固定によって残った症状を後遺症と呼びます。
症状固定になると、完治するケガの場合と同じく、治療中の損害が確定するのと同時に、後遺症に対する損害も確定しなければなりません。
しかし、後遺症の全てで損害が認められるとは限らず、損害が認められる後遺症は、後遺障害等級が認定された後遺症=後遺障害に限ります。
つまり、症状固定によって、症状固定以前の損害は確定しますが、症状固定以後の損害は、後遺障害等級の認定によって発生の有無が左右されるということです。
死亡に至った場合
不幸にも事故で死亡してしまった場合、損害は数日程度で確定します。
なぜなら、死亡時の損害は、亡くなった人が生きていれば得るはずだった収入(逸失利益)を、死亡時の収入から算定するに過ぎず、慰謝料も基準があるからです。
ただし、事故による即死ではなく、治療があって事故との因果関係により死亡した場合には、死亡に至るまでの治療費等も損害として認められます。
いずれにしても、損害が確定するタイミングは死亡時になります。
治療が長引くと保険会社は手を打ってくる
治療がある程度長引くと、治療が必要かどうかは、診察した医師の判断に大きく依存します。
医師が治療の必要性を感じていなくても、被害者である患者が治療を求めれば医師は拒めませんが、妥当な治療でなければ当然損害賠償請求ができなくなります。
唯一死亡時だけは、死亡の事実が覆ることはないため損害の確定は明確でも、ケガならびに後遺症が残るケガでは、医師による診断がポイントです。
そこで、賠償額を減らしたい保険会社は、医師に治癒や症状固定の診断ができないか探り、できるだけ治療期間を短くしようとしてきます。
また、本来の治療費請求は損害の確定後ですが、治療期間が長いと被害者の負担が大きいため、内払いとして加害者側が治療費を負担している場合も多くあります。
このとき、保険会社が治療費の支払いを打ち切ると言ってくることもあります。
なぜなら、医師からは治療の必要性があるとされるケースでも、被害者本人に確認すると、治療費の打ち切りと聞くだけで治療を終了する可能性があるからです。
病院側は治療を希望しない患者に対して、無理に治療を勧めることはできませんから、保険会社の思惑通りに治療期間を短くして支払いを減らそうとするのです。
その場合の対処方法はいくつか考えられますが、肝心なのは「治療が必要で医師も同じ考えなら治療をやめない」ということです。
詳しくは、「治療費打ち切りへの対応」で確認してみてください。