治療費などで発生した損害は、全て(過失相殺があれば一部を)加害者に請求します。
その前に、加害者について確認するべき点は多く、相手を知らなければ示談交渉にもなりません。
特に加害者の支払い能力については、損害賠償請求をする上で必須です。
支払い能力では、加害者本人の支払い能力よりも、自動車保険への加入状況が重要です。
自賠責保険と任意保険の加入状況
加害者が事故の賠償に備えて加入する保険には、自賠責保険と任意保険があります。
このうち、自賠責保険は強制加入で任意保険は任意加入ですが、強制加入の自賠責保険ですら加入していない人もドライバーの中には存在します。
したがって、2つの自動車保険を組み合わせた4パターンが考えられます。
1.自賠責保険と任意保険に加入している
2.自賠責保険だけに加入している
3.自賠責保険に未加入で任意保険に加入している
4.どちらの自動車保険も未加入
3の自賠責保険未加入で任意保険加入となるケースは僅かですが、車検切れで自賠責保険も同時に切れた場合と、車検のない原付バイクでは任意保険だけに加入という状態が起こり得ます。
一般に自賠責保険よりも任意保険の方が手厚いので、任意保険に加入していれば自賠責保険は未加入でも大丈夫だと思うでしょうか?
任意保険は、自賠責保険で賠償しきれない部分を補うためにあるので、自賠責保険に未加入では自賠責保険の限度額まで加害者の自己負担です。
加害者に全く支払い能力がなければ、自賠責保険で支払われるべき保険金を受け取れません。
1の自賠責保険と任意保険に両方加入している場合は、多くの場合に任意保険会社が窓口となる、「一括払い」制度が活用されます。
この場合、損害賠償額に争いはあっても、確定した損害額が支払われない心配は、加害者が低額な保険金額を設定していない限り、ほとんどないと言えます。
2の自賠責保険だけの加入では、加害者の自賠責保険に請求し、限度額を超えてしまったら加害者本人に請求することになります。
しかし、加害者に資力が無ければ、自分の自動車保険が使えないか確認するしかないでしょう。
3の任意保険だけの加入では、自賠責保険での支払いが無いので、加害者が支払えなければ自賠責保険分は政府保障事業に請求します。
損害額が自賠責保険を超えたら、超過分については任意保険会社に請求できます。
4の完全な無保険では、加害者が支払えなければ自賠責保険分は政府保障事業に請求します。
しかし、自賠責保険を超えた分に残りについても、自賠責保険分が支払えない加害者が支払えるとは思えないので、自分の自動車保険で補償を受けられないか確認することになります。
加害者以外にも損害賠償請求できる場合がある
交通事故の損害賠償を加害者に問うのは当然としても、加害者に必ずしも資力が十分とは限らず、加害者から賠償を受けられない場合を想定しておかなければなりません。
加害者以外に損害賠償請求できるのはどのような場合でしょうか?
1.加害者が自動車の所有者ではない場合
事故を起こした自動車の所有者は、運行供用者としての損害賠償責任を負います。
運行供用者とは、自動車を所有・管理する立場の人で、本人が運転していなくても損害賠償責任を負うと自動車損害賠償保障法(自賠法)で規定されています。
ただし、盗難事故など一部の事例では、運行供用者責任は免責されます。
2.加害者が未成年の場合
一般には未成年者が責任能力を持っていない場合、親がその損害を賠償する責任を負います。
しかし、中学生になる頃には責任能力があるとされていることから、車やバイクを運転する未成年者では、ほとんどが運転者自身に損害賠償を問うしかありません。
それでも、未成年が自己所有の自動車を運転するケースは少なく、運行供用者(所有者)としての親の責任を追及することはできるでしょう。
親が所有者ではなくても、購入資金を負担していれば親に請求できる場合もあります。
3.加害者が業務に従事している場合
業務中の事故については、使用者である勤務先が損害賠償責任を負います。
事業用の車両はもちろんのこと、従業員の自家用車を業務で使用させていても、同じように会社が運行供用者になりますが、あくまでも業務に使用させていることが条件であり、通勤途中に従業員が自家用車で事故を起こしても、会社側に運行供用者責任を問うことはできません。
4.加害者が死亡している場合
加害者と被害者の区別は、損害の大きさではなく過失の大きさで決まりますから、加害者が死亡してしまう交通事故も時には起こります。
加害者が死亡していると、損害賠償責任は相続人に相続されますので、遺族に請求します。
心情的に遺族への請求はためらわれますが、他には請求できないので仕方がありません。