示談が成立すると、示談の結果を記載した示談書を作成してお互いに保管するのが通常です。
示談書がなければ、加害者は支払いの約束を無視して損害賠償をしないことも考えられ、それを防止するための示談書なので、必ず作りましょう。
示談書の書式は決まっていませんが、書くべきポイントは決まっており、定型化されています。
もっとも、個別の事例で示談書も異なるため、参考程度にしてください。
示談書に書くべきポイント
前提として、一般的に示談書では、加害者を甲、被害者を乙として書き、「甲は乙に対して~」のように、加害者から被害者への支払い義務を書いていきます。
1.事故の内容
事故の発生日時、事故現場の住所、加害者の車両登録番号、事故の発生状況を明記します。
被害者の車両があれば、被害者の車両登録番号も書きます。
2.示談した内容
加害者が被害者に、損害賠償金としていくらを、いつまでにどんな方法で支払うのか書きます。
必要であれば、加害者と被害者の損害額、加害者と被害者の過失割合、既に支払われた損害賠償額、加害者に支払い義務のある残額を書いておきます。
また、支払い方法を振込にするときは、振込手数料の負担についても、後からトラブルにならないよう必ず決めて明記しておきます。
3.支払いされない場合について
指定の期日までに支払いがない場合について、違約金または遅延損害金の利率を書きます。
4.示談後の後遺症発生
示談後に予測できない後遺症が発生しても、被害者は請求できるとする見解が通常ですが、念のため後遺症が発生した場合に、別途協議する(もしくは支払う)旨を残しておきます。
5.口座番号
支払い方法を振込にするときは、口座番号を記載します。
6.清算条項
示談書に記載の内容以外は、債務債権がないことを確認し、今後一切の請求をしないとします。
この清算条項こそが、示談後の請求ができなくなる根拠なので、示談書に署名押印する前には、何度も読み返して間違いがないように確認しましょう。
7.日付・当事者の署名押印
示談書を作成した日時の記載と、加害者と被害者それぞれが氏名を自署して押印します。
公正証書にするメリット
示談書は支払いの約束の証拠ですが、保険会社が相手なら一括払いでも、加害者との示談では大抵は分割払いになりますので、将来加害者が予定した収入を失って支払えなくなる、または意図的に支払わない事態も十分に想定されます。
加害者に支払い義務があるのは明らかなのですが、被害者が請求しても支払わない場合は、民事訴訟で判決を得てから、強制的に取り立てる強制執行が可能になります。
しかし、特定の公正証書にしておくと、裁判をしなくても強制執行できるようになります。
特定の公正証書とは、強制執行認諾約款と呼ばれる条項を含めた公正証書で、「支払わない場合に強制執行することを承諾する」といった文言を付けておく方法です。
こうした文言が入った公正証書ではなく、単に公正証書にしただけでは裁判が必要です。
また、公正証書にすることで証拠能力が上がり、加害者に対して心理的なプレッシャーを与えることができるので、公正証書にするデメリットはほとんどありません。
加害者との示談では、可能な限り示談書を公正証書にしておくべきと言えるでしょう。
加害者に必ず支払う固い意思があれば、公正証書にすることを嫌がる理由はありません。
もし公正証書にすることを加害者が嫌がるなら、既に将来支払わない可能性が含まれていると考え、示談そのものを成立させない対応も検討するべきです。
公正証書を作るときは
公正証書は、公証役場(法務局等にある)の公証人という公務員に作成してもらいます。
必要なものは、示談書、本人確認書類と認印または印鑑登録証明書と実印で、他に数千円~数万円の手数料(示談書に書かれた金額によって異なる)が発生します。
加害者と会いたくないなど、代理人に依頼する場合は、本人が自署押印した委任状に実印を押し、印鑑登録証明書を添付したものが必要です。
また、代理人本人も本人確認書類と認印または印鑑登録証明書と実印を持参します。
実際のところは、素人が作った示談書を持ち込んでも、なかなかうまくいかないので、行政書士や弁護士に作成を依頼するか、公証人と打ち合わせて、示談書の記載を確認してもらいます。
つまり、示談書を公正証書にするときは、先に公証人との打ち合わせをして、公正証書にできるレベルの示談書を作っておくことが大切です。
その後、加害者と共に(もしくは代理人と)公証役場に行って公正証書の作成を依頼します。
後日、もう一度公証役場に出向き、公証人が作成した公正証書の内容を、加害者と被害者の両方が確認して署名押印します。
そして、その原本は公証役場で保管し、正本は被害者が、謄本を加害者が保管します。
正本を被害者が保管するのは、強制執行の手続きのために正本が必要だからです。
なお、示談は当事者の取り決めなので、事前に公証人に確認してもらうからといって、公証人は中立の立場から示談内容について何かを言ってくることはありませんが、法的に許されない示談内容であるときは、公正証書そのものが作成されません。